戦乱恋譚

すると、伊織が、ふっ、とこちらを見た。いつもの変わらない白銅の瞳が私を映す。


「…華さん。顕現録は、今持っていますか?」


「え?」


きょとん、と、すると、伊織は、綾人へちらり、と視線を向けて続けた。


「今回は良かったものの、この先、俺の目の届かない場所で華さんが襲われたら、顕現録を守りきれません。…なので、新たな折り神を顕現する時までは、俺に預からせて貰えませんか。」


「!」


たしかに、伊織の言うことは一理ある。綾人の目の前で言うのもあれだが、月派が顕現録を狙っていることは事実だ。

私が持っているよりも、伊織が持っていた方が何かがあった時に安心だろう。


「わ、わかった。そういうことなら…」


荷物の中から、顕現録を取り出す私。手渡された伊織は、真剣な表情で目を細め、瞳の色を変えた。

しかし、それは一瞬で、すぐにいつもの笑みに戻る。


「ありがとうございます。…では、私はまだ公務が残っておりますので、華さんは先に屋敷に帰っていてください。」


「え?」


いつもの伊織なら「送っていきます」くらい言いそうだが、やはり、あの夜以来、一線を引かれてしまったのだろうか。

少しショックを受けたが、必死にそれを隠して笑い返そうとした

その時だった。


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