戦乱恋譚
「!」
急に、辺りに霊気が立ち込めた。何かを察したような伊織さんも、ふっ、と表情を変える。
───ザッ!
木の葉の音が聞こえ、私たちは一斉に後ろを振り向く。
すると、そこに現れたのは和服の青年だった。
…漆黒の髪に、夜に映える碧瞳。
その青年はぞくりとするほど美しく、どこか伊織さんと似た雰囲気を纏い、その冷たい眼差しは色香を帯びている。
「…綾人…」
伊織さんが、ぽつり、と呟いた。
名を呼ばれ、漆黒の髪の青年は静かに薄い唇を動かす。
「久しいな、伊織…いや、今は“十三代目”と呼ぶべきか。」
低く威厳のある声が庭に響いた。
伊織さんは、彼を見つめたまま目を細める。
「…お前も、当主になったのか?」
「あぁ…。もう、お互い、昔のような無邪気な関係ではいられない。」
この、“綾人”と呼ばれる青年こそが、伊織さんと敵対する月派の当主らしい。
すると、ちらり、と私を一瞥した彼が、わずかに眉を寄せた。一瞬目があっただけなのに、彼の圧倒するようなオーラに、ぞくり、と震える。
「戦場で密会とは…余裕だな。お前の女か?」
「…!彼女は関係ない。運悪く戦渦に巻き込まれた、ただの村娘だ。」