戦乱恋譚
すっ、と私の前にかしずいた彼は、そろそろ頃合いだと思っていたようだ。私と伊織の姿を見て、わずかに目を細める。
『…時空の歪みに入れば、二度と後戻りは出来ん。後悔はないな?』
試すような視線に、私は力強く頷いた。
「私は、伊織の隣で生きるって決めたの。…だから、後悔なんてない。」
「…!」
すっ、と私の手を取った伊織。優しく握りしめられ、共に、一方踏み出す。
ゴォォッ!
朧の霊力の渦から、見覚えのあるブラックホールが現れた。ぐにゃり、と歪む景色の向こうに、豊かな自然と大きな屋敷がうっすら見える。
───トッ!
勢いよく、その渦に飛び込んだ。繋がれた手が離れることはない。
そして、住み慣れた世界が遠ざかっていくのが見えた瞬間。ドサ!とかたい床の上に投げ出された感覚がした。
「っ!」
衝撃とともに息を漏らすと、そこに見えたのはいつかとおなじ光景だった。何もない小さな木の小屋。伊織も、隣で肩をさすりながら起き上がる。
ふっ、と、朧が霊力を消した。格子の外に、豊かな自然が見える。
(…!戻って来たんだ。私、本当に…)
…と、その時だった。