戦乱恋譚
慌てる私に『分かってる分かってる。』と笑った千鶴は、深紅の瞳を輝かせ、低く言った。
『…さぁ。命じろ、姫さん。』
「!」
『この俺に、何を願う?』
森を囲む式神の群れ。容赦なく攻める敵の刃。こんなの誰が見ても白旗寸前の状況だ。人の力じゃ、勝ち目なんてない。
“神”という幻みたいなものに命を預けるなんて博打じゃないか、と思ったが、もう、彼を信じるしかなかった。
「私と伊織さんを月派から守って!」
『…!』
深紅の瞳が不敵に細められ、バサリ、と純白の着物が翻る。
『…その願い、しかと聞き届けた。』
パァァッ!!
凄まじい霊力が放たれた。光に触れ、動きを止める式神。
千鶴が腰に下げた刀を抜いた直後、辺りにはびこっていた敵が次々と斬り倒され、煙のように消えていく。
それは、一瞬の出来事だった。
無駄な動きなど一つもなく、夜空を舞うように斬撃を繰り出す千鶴から目が離せない。
地面を蹴った千鶴は、獲物をとらえたように一直線に綾人へと刀を振りかざす。
ガキン!!!
刃を受け止めた綾人は、わずかに目を細めた。
『あんたが、月派の当主ねぇ…』
ガガガ…
拮抗する鋼の音が、緊張感を高める。
品定めをするような千鶴を睨み返す綾人。そんな彼に、千鶴は、ふっ、と笑みを消して低く告げた。
『あんた、霊力はそこそこあるようだが…。次、神城の領域を汚したら…容赦はしない。』
「!」
『…お仲間連れて、とっとと帰れ。』