戦乱恋譚
カキン!
弾かれる千鶴の刀。
一瞬の膠着状態の後、撤退を決めたような綾人はちらり、と伊織さんを一瞥し、闇夜の森に姿を消した。
しぃん…
何事もなかったかのような静寂に包まれる。
月派の霊力が完全に消えた瞬間、ふっ、と体の力が抜けた。
(よ、よかった…)
思わず伊織さんに寄りかかると、彼は不安げな表情で私を覗き込む。
「痛むところはありませんか?」
「へ、平気です。ちょっと、安心したら腰が抜けちゃって…」
私の返答を聞いて表情を緩めた彼は、白銅の瞳を優しく細めた。
…バサッ!
目の前に降り立つ白い影。月光を浴びるシルエットに、顔を上げる。すると、伊織さんを見た千鶴が、ぱっ、と顔を明るくした。
『おぉ、伊織じゃねぇか!でかくなったな!昔は赤ん坊だったのによ。』
「…?」
にこにこと笑う千鶴だが、伊織さんは覚えていないようだ。以前顕現されたのは、相当昔だったのだろう。2人の間に深い交流はないらしい。1人、昔を懐かしむ千鶴は、ひとしきり伊織さんに構うと、きょろり、と辺りを見回した。
『ところで、“遼太郎”はどうした?俺はてっきり、あいつに呼ばれたと思ってたんだが。』
「!」