戦乱恋譚


てっきり、私は“仮の妻”として使用人や町の人たちの前でそれなりにいちゃいちゃしたり、親密さを演出しなければならないのかと思っていたが、彼は私に無理強いする気は一切ないらしい。

私自身、知り合って間もない人と夫婦のフリをしてうまく立ち回れる気はしていなかったので、彼の言葉に少し安堵した。


「今日は、屋敷の使用人たちと交流してみてはいかがですか?好きに歩いて構いませんから、自由に過ごしてください。」


こんな放し飼いみたいな緩さで良いのだろうか。彼の、のほほん、とした雰囲気にのまれて頷きそうになる。

…と、その時。部屋を出て行こうとした伊織が、はた、と足を止めた。


「…あ、華さん。」


「?はい?」


「すみませんが、“屋敷の離れ”には入らないでくださいね。あそこは、俺の私室なんです。」


(…!)


くるり、と振り返った伊織の表情は、先ほどと何も変わらなかった。わずかに声が強張っていた気がするのは、気のせいなのだろうか。

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