戦乱恋譚

「分かった。…部屋には入らない。」


私の言葉に頷いた伊織は、「では、ゆっくり食べていってくださいね。」と笑って部屋を出た。

私は、そんな彼の背中を見送る。

…“見られたら恥ずかしいものが…!”なんていう口調ではなかった。まぁ、止められた以上、入ろうだなんて思わないが。

私は、彼の違和感が少し引っかかったが、特に気に留めることなく味噌汁を飲み干したのだった。


**


「伊織様ですか?それはもう憧れの存在ですよ!」


「あれほど当主に相応しい方は見たことがないわ…!」


「使用人の名前も一人一人覚えてくださっているし、皆、あの方を慕っていますよ。」


お昼過ぎ。伊織の助言通り、屋敷の使用人たちと交流を始めた私は、“伊織はどんな当主なのか”を聞き回っていた。

妻なのに夫のことを全然知らないのは不自然なので、本人はどういう性格なのか、というのを直接聞くことはできない。

なのでその代わりに、使用人の目から見て彼がどのように映っているのかを尋ねていく。

すると、屋敷の人は口をそろえて“伊織はいい人”と言うのだ。


(伊織ってやっぱりすごい人なんだ。一言も悪口が聞こえてこないなんて。)


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