戦乱恋譚

(…あ。)


その時。ふと、視界に母屋から離れた小屋が見えた。どうやら、あれが伊織の言っていた“離れ”らしい。

“離れ”と言っても別館として建っているわけではなく、この屋敷と小さな橋で繋がっているようだ。


“すみませんが、“屋敷の離れ”には入らないでくださいね。あそこは、俺の私室なんです。”


伊織の言葉が蘇る。


(ちょっと気になるけど、ダメって言われたもんね。)


…と、私が元来た廊下を戻ろうとした、その時だった。


ふわっ…


どこからか、嗅ぎ慣れた“消毒液”の匂いがした。ふっ、と香りを辿ると、廊下の突き当たりの引き戸が少し開いている。

導かれるように進み、そっ、と部屋を覗く。

…そこには、木製のベッドが二台と、仕切りとなるついたて、既視感がある医療道具が揃っていた。


(ここは、もしかして“医務室”…?)


職業柄、興味が湧いてきた、次の瞬間だった。


「どこかお怪我をされたかな?」


「きゃっ?!」


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