戦乱恋譚
「…月派の隠密か。」
耳元で彼の低い声が聞こえる。
…隠密?
この人は、一体何時代の話をしているんだ。
彼の腕が、私の腰を抱いた。ゆっくりと彼の手が私の体をなぞる。
「…!武器を持っていないのか…?」
(…っ!)
…と、彼の手が胸に触れかけた
その時だった。
ミシミシミシ…ッ!
炎に包まれた一本の木が、音を立てて傾き始めた。襲いかかる火の枝に、目を見開く。彼が私を軽々抱き上げ、抵抗するまもなく身を任せる。
ドォン!
倒れる幹を寸前でかわし、二人は火の手を免れた森へと飛び込んだ。
ザザザザッ…!!
私を庇うように抱きしめる彼。やがて勢いが止まると、頭上から安堵の息が漏れた。
そこで、私は、はっ!とする。
「は…、離してくださいっ!」
「!」
ドッ!
力の限り彼を振り切った。震える手を、ぎゅっと握りしめ彼を睨むと、青年は動揺したように私を見つめる。
緊張状態の沈黙が続く。その膠着を破ったのは彼だった。
「貴方は…?」