戦乱恋譚
伊織が、ぴたり、と足を止めた。目を見開く彼に、はっ、とする。
「あ、えっと…ここまで見つからないと、さすがにちょっと落ち込んじゃって。ごめんね、暗いこと言っちゃった…!気にしないで!」
あはは、と笑い飛ばす私。だが、心はどんどん暗くなった。
もし、伊織が霊力を持ったまま、彼を顕現出来ていたら…あの折り神は、伊織を主と認め、素直に従っていたかもしれない。改めて、自分の実力のなさを実感する。
…と、その時。
モヤモヤする気持ちをなんとか吹き飛ばそうとしていると、伊織が、すっ、と私の手を取った。
さりげなく握られた手に、どきり、とする。
「…やっぱり、少し休憩していきましょうか。せっかく、二人きりで出かけているんですから。」
(…!)
気遣うようなその言葉に、つい心が揺れた。私の心の中を見透かしたような彼の瞳に、こくり、と頷く。
私たちは、そのまま大きな鳥居をくぐり、荘厳な神社のお社を見上げた。さわさわと心地よい風が木々を揺らしている。
「…大きな神社だね。」
「えぇ。ここには、戦の神様が宿っていると言われていましてね。…俺も、戦地に赴く前は、必ず立ち寄っているんですよ。」
すると、伊織はちらり、と私を見て続けた。
「…それと。ここは、“恋愛成就”で有名な神社でもあります。手を合わせていきますか?」
(“恋愛成就”…?)
まさか、恋敵との勝負にもご利益があるのだろうか。さすが、戦の神様。効果は幅広いらしい。
一応、手を合わせておこうかと、賽銭を投げ入れ、目を閉じる。
すると、少しの沈黙の後、ぽつり、と伊織の声がした。
「…華さんは、いらっしゃるのですか?」
「え…?」
「その…心に決めたお方が。」