戦乱恋譚
その時、私を庇うように立っていた伊織の雰囲気が、がらり、と変わった。
「…っ、本条 宗一郎…!!」
(!宗一郎って、月派の十二代目当主…?)
その名前には、聞き覚えがあった。かつて、虎太くんの口から聞いた、“伊織の父を殺した男”の名だ。
殺気を纏う伊織。こんな激しい憎悪を宿した瞳の彼は、初めて見る。
すると、黒い羽織の男性は、ふっ、と口角を上げてこちらへ視線を向けた。
「久しいな、伊織。折り神を顕現させるとは、十年前と比べて成長したようだな。」
わざと煽るような台詞を投げかける十二代目。伊織は、挑発に乗ったようにさらに殺気を濃くした。
もう、復讐の対象である彼しか見えていないようだ。
その時、十二代目が綾人を見下ろして口を開く。
「無様だな、綾人。私が授けた霊力はどうした。…そんな“使えない折り神”なんか捨てて、さっさと顕現録を奪い返せ。」
「!」
(“使えない折り神”…?…なんて奴なの…!)
綾人の表情は、怒りに震えている。綾人の佐助を抱く腕が、小刻みに震えた。
『綾人…さま…』
自分のことより、主人である綾人が侮辱されたことで酷く傷ついた様子の佐助。しかし、先代の当主の権力は絶対らしい。彼らは何か反抗するわけでもなく、立ち上がる。