戦乱恋譚
『…神よりずっとか弱い人間が、折り神を庇うなんて、信じられん。自分が死ぬかもしれなかったのだぞ。』
私は、ごくり、と喉を鳴らした。きっと、何かを言い間違えれば全てが終わる。試されているような感覚の中、私は、はっきりと彼に答えた。
「…先代に利用されて佐助が死ぬのが、許せなかったの。」
『!』
「折り神は、陰陽師の道具じゃない。…この世界に生きる、唯一無二の存在だから。」
千鶴たちと暮らし、綾人に忠誠を誓う佐助をみてわかった。人間と共に生きる折り神は、ちゃんと自分の“心”を持っている。
戦力として利用されるべきじゃない、大切な仲間だ。
『…くっ。…あはははっ!』
(!)
目の前の青年が、急に笑い声をあげた。
状況の読めない佐助と共に動揺していると、彼は笑いながら口を開く。
『長く折り神としてあらゆる人間に仕えてきたが、お前のような主は初めてだ。人間ふぜいが、折り神を守ろうなどと、甘っちょろい。…だが、大事にされるのは嫌いじゃないな。』
伊織や、千鶴たちが目を見開くと同時に、ばさり、と、私の前にかしずく青年。ゆっくりと見開かれた切れ長の目が私を映す。その桃色の瞳には既視感があった。
(この人、もしかして…!)
今朝、屋敷から姿を消した記憶の中の彼と、目の前の青年の瞳が重なった瞬間、彼が薄い唇を開く。
『我が名は“花一匁(はないちもんめ)”。“菊”の依り代に宿りし折り神だ。力を欲する人間の手を渡り歩き、正直嫌気がさしていたが…お前を主人として認めてやろう。』
私が、はっ、と息を呑むと、彼は艶やかな笑みを浮かべてさらりと告げた。
『───せいぜい俺を愛せよ?姫。』