戦乱恋譚
くいっ、と酒を飲み干され、ショックを受けている様子の虎太くん。ぷくぅ、と頰を膨らませて悲しそうな顔をする彼に「ほら、こっちにお茶があるから。な?」と助け舟を出したのは咲夜さんである。
美味しい料理が次々と運びこまれ、使用人たちもわいわいと盛り上がってきた。
ちらり、と辺りを見回すと、千鶴は酒瓶をまるごと抱きかかえながら笑って会話をしているし、花一匁は屋敷の女性たちに囲まれている。
虎太くんも、咲夜さんに何やら一生懸命話しかけていて、その姿はまるで親子のようだ。
(みんな、楽しそう。)
…と、その時。私と同じように屋敷の人々を見つめている伊織が目に入った。どうやら、あまり箸が進んでいないらしい。
「伊織、具合でもわるいの?」
「え?」
はっ、とした彼は「そんなことないですよ。」と笑い、広間に視線を移した。
「この賑やかな光景を、目に焼き付けておきたいと思いまして。」
穏やかな彼は、そう言って笑った。どこか遠い目をする彼に、どきり、とする。
伊織は、たまにこうしてひどく儚い雰囲気を纏う時がある。目の前ではなく、どこか遠い未来を見つめているような、そんな瞳。