戦乱恋譚
「…あんたには感謝してる。佐助だけが、俺の唯一の家族みたいな存在だからな。」
綾人が、ふいっ、とこちらを見下ろした。穏やかな表情は、心の底から嬉しそうだ。
(今なら、聞けるかもしれない。)
私は、意を決して彼に尋ねた。
「綾人。」
「ん?」
「私の中に宿る霊力を、伊織に返す方法はないの?」
すると、綾人はわずかに顔を曇らせて答えた。
「俺の霊力は、全て十二代目から授かったものだ。…術の効果を消すには、あの男の持つ霊力を奪わないとならない。」
「そう、なんだ……」
綾人だけの力では、どうにもならないことらしい。落胆する私に、綾人は目を細めた。
「…すまないな。本当は俺は世話になった陽派と敵対などしたくないのだが…。縁を結ばれた手前、俺もあの男に逆らうことが出来ないんだ。」
綾人の気持ちも、十分わかる。彼は彼なりに悩んでいるんだ。
その時、虎太くんが何かに気がついたように綾人に尋ねた。
『そういえば、今日、佐助さまは一緒じゃないのですか?』
「あぁ。…今朝から姿が見えないから、俺も探しているんだが…」
不安げな綾人。
すると次の瞬間、彼が、はっ、と目を見開いた。
「伊織…?」
(…っ!)