戦乱恋譚
神社の鳥居の向こうに見えたのは、傘をさした伊織の姿だった。
彼も私に気がついたようで、はっ、とする。しかし、私の隣にいる彼を見た瞬間、伊織は、さっ、と顔色を変えた。
険しい顔で私の腕を引いた伊織は、私たちの間に割って入るようにして綾人を睨む。
「綾人!なぜお前がここに…!」
警戒する伊織に、私は慌てて声をかけた。
「い、伊織、落ち着いて!今は顕現録を奪われそうになっていたわけじゃないの!」
「…!」
その言葉を聞いて驚く伊織。戸惑う彼に、私は続けた。
「伊織に傘を渡そうと思って町に出たら、偶然綾人と会ったの。綾人は、この前の佐助くんの件で私にお礼を言いにきてくれただけ。」
「!そう、でしたか…」
ほっ、とした様子の伊織は、ふっ、と肩の力を抜く。虎太くんが、そんな伊織を見上げて尋ねた。
『伊織さま、傘を持っていたのですか?』
「あぁ…、出先で貸してもらったんだよ。ちょうど雨が降り出したからね。」
私の気遣いは、どうやら必要なかったらしい。…まぁ、町に出たおかげで綾人から色々な話を聞くことが出来たが。