Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
ミーティングが終わると、いつもの業務に取り掛かる。千紗子は閉館中用の返却ポストに入っている図書を書架に戻す仕事を始めた。
児童書コーナーで絵本を棚に戻していると、同じように絵本を数冊抱えた美香が千紗子の側に寄って来た。
「ねぇ千紗ちゃん。」
「はい。」
美香の声が小さなものだったので、自然と千紗子の声も小さくなる。
今は開館前で利用者がいないので、そんなに声を落として話す必要はない。千紗子が不思議に思っていると、美香が絵本を口元に寄せてから口を開いた。
「雨宮さん、今日は遅番だったはずよね…急な会議でも入ったのかしら?千紗ちゃんは何か聞いてる?」
「いいえ…何も…」
『色々やっておきたいことがある』とは聞いていたが、『会議』だとは聞いていない。
「そっか~。ま、雨宮さんはシフト前に来ることとかよく有るものね。さすがに遅番の時に開館前から居ることは珍しいから、何か有ったのかと思っちゃった。」
(やっぱり私を送る為に、早く出てくれたのかも…)
美香の独り言のような台詞に、千紗子は雨宮の早すぎる出勤のことを思う。
(私、雨宮さんの言葉に甘えすぎかもしれない…。これからはしっかり線を引かないと…)
数日間だけ雨宮の家に世話になると決めたけれど、それ以降は千紗子一人でやって行かなければならない。このまま雨宮に頼りきってのは、のちのちの事を考えると良くないな、と千紗子は自分を戒めた。
「…さちゃん、千紗ちゃん?」
「は、はいっ。」
「どうしたの?大丈夫?何度か呼んだのだけど、ぼうっとしていたわよ?」
「すみません…」
「ううん、気にしないで。それよりも、大変なことがあったんだもの。あんまり無理しないでね。」
気遣わしげな美香の言葉に、千紗子は「はい。」と小さく返事をした。