Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「…こ、…さこ、…千紗子」
自分を呼ぶ声がする。
千紗子は閉じていた瞼をそっと持ち上げた。
「千紗子、こんなところで寝ていたらまた熱が出るぞ。」
「きゃっ!」
目を開けた途端、端整な顔が視界いっぱいに飛び込んできて、千紗子は短い悲鳴をあげた。
千紗子は入浴後、雨宮の帰宅を待ちながらソファーで本を読んでいたはずだ。
けれど、疲れた体にソファーの柔らかさが心地良くて、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
肘掛けにもたれていた体を起こすと、千紗子の体からブランケットがずり落ちた。
「これ…。」
掛けた覚えのないブランケットを持って雨宮を見上げると、スーツ姿の彼がブランケットを千紗子の膝の上に戻した。
「風呂に入ったんなら温かくしていないと。体が冷えてる。」
「あ、ありがとうございます。」
「先に寝てて良かったのに。好きに過ごしてて良いって言ったろ?」
「えっと、はい…。読みたい本も有ったので。」
いつのまにかソファーの下に落ちている文庫本を拾い上げる。
「雨宮さん、夕飯は食べましたか?」
「いや、まだだ。」
「じゃあ準備しておきますので、先にお風呂どうぞ。」
「いいのか?」
雨宮が目を丸くする。
「はい、食事を準備するって、昨日言いましたよね?あ、別に強制ではありませんよ。食べるか食べないかは雨宮さんの自由なので、気にしないでください。」
食事の用意は、あくまでお礼の一環だ。だから無理に食べなくてもいいと、いう意図で千紗子はそう言った。
「千紗子が用意してくれた食事を、食べないわけないだろ?楽しみにしてる。」
満面の笑みでそう言われると、千紗子はどうしていいか分からなくなる。
ただでさえ、今は『上司の姿』をした雨宮なのだ。それなのに、オフの時の態度で接してくる彼に、千紗子だけがいつまでもオンオフを切り替えられずに、あたふたしてしまうのだった。