Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
雨宮が風呂に行くと、千紗子は食卓の準備に取り掛かった。
肉じゃがと味噌汁の鍋をそれぞれ火に掛け温め直す。既に小鉢に盛り付けて冷蔵庫に入れておいたほうれん草の胡麻和えは、テーブルに運ぶだけだ。
箸とグラスをそれぞれに並べると、あっという間に夕餉の支度が整った。
「おっ、美味そうだな。」
ちょうど風呂から戻ってきた雨宮が、タオルで頭を拭きながらダイニングテーブルの上を見て言った。
まだ濡れたままの黒髪が艶々と光って、色っぽい。
さっきまで『職場仕様』の姿だったのに、すっかりラフな『家モード』になっている。その証拠に、彼の眼鏡がブラウンの太フレームのものに変わっていた。
食卓準備の最後に、千紗子がトレーにご飯と味噌汁をそれぞれ二つずつ乗せてダイニングテーブルに運ぶと、雨宮が少しだけ動きを止めた。
「あれ、千紗子もまだ食べてなかったのか?」
「…はい。」
時刻はもう九時半を回ろうとしている。夕食にしては遅い時間だ。雨宮は、千紗子は既に食事を済ませているのだとばかり思っていた。
「先に食べてて良かったんだぞ。」
申し訳なさそうな雨宮の表情を浮かべる雨宮に、千紗子はもごもごと言い訳を連ねる。
「えっと、先にお風呂を頂いてから食べようと思っていたんですが、読みかけの本を手に取ったらつい時間を忘れてしまって……気付いたら寝てたんです。」
半分本当だが、半分は嘘だ。
本当は、雨宮と一緒に食べようと待っているうちに寝てしまったのだから。
「ありがとう。」
雨宮が柔らかく微笑む。
その嬉しげな表情に、千紗子はホッと肩を降ろした。