Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「せっかくだから、冷めないうちにいただこう。」

 「はい。」

 二人で手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてから、箸を付けた。
 雨宮の手元のグラスにはビールが、千紗子のグラスにはお茶が入っている。

 「うん、美味い!」

 肉じゃがを大きく一口頬張った雨宮が、声を上げる。

 「良かったです…お口に合ったみたいで。」

 「すごく美味しいよ、千紗子。」

 次々と料理を口に運ぶ雨宮に、千紗子は目を奪われる。
 箸の進み方は早いけれど、雨宮の食べ方はとても綺麗だ。姿勢もいいし、マナーも完璧なので、ガツガツした感じは少しもない。
 美しいのに気持ち良いくらいの食べっぷりに、千紗子はしばらくく釘づけになっていた。

 「千紗子は食べないのか?」

 「え?あ、はい、食べます。」

 千紗子が自分用によそった料理はどれもごくわずかだ。
 普段は食が細いわけではないけれど、あんなことがあってから、千紗子の食欲はすっかり落ちていて、食べ物を美味しいとあまり思えないのだ。
 昼もロッカーに常備してあるカロリー補助食品を食べただけだった。

 「思っていた通り、千紗子は料理が上手だな。」

 「そんなことはありません…でも、『思っていた通り』って?」

 「いつも手作りの弁当を持ってきていただろう?休憩室で食べているのが見えた時なんかに、美味しそうだと思っていたんだ。ずっと千紗子の作った弁当を食べてみたいと思っていたから、思いがけず千紗子の手料理が食べれて、本当に幸せだ。」

 ほくほくとした顔で、また肉じゃがを口に入れる雨宮に、千紗子は衝動的に口から言葉が衝いて出た。

 「あのっ、もし良かったらお弁当も作りましょうか?」

 「え?」

 「や、その、えっと…迷惑じゃなければ、ここに居る間だけ…」

 千紗子は尻すぼみにそう言いながら、テーブルの上に視線をさまよわせる。
 
 (余計なことを言ってしまったかも……)

 何も言わない雨宮に、千紗子は焦りを感じた。
 やっぱりさっきの提案は取り下げようと、もう一度口を開く。と同時に正面から声がした。
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