Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
食後の片づけは二人でやった。
千紗子は自分一人で片付けると言ったのだが、「作って貰ったのにそんなことは出来ない」と雨宮が袖を捲ってシンクの前に立ったので、千紗子は雨宮に洗った食器を拭く仕事をお願いした。
「そう言えば、食器もあまりなかっただろう?」
「そうですね。」
食器を戸棚に戻しながら今更ながらそのことに気付いた雨宮に、千紗子は小さく笑う。
雨宮の食器棚には皿数も少なく、揃いの茶碗などはない。本当に必要最低限の食器だけだったので、千紗子は料理をどの更に盛るのか、ほとんど悩まずに済んだのだ。
食事を取るための食器は少ないが、反対にお酒用のグラスは種類も数も豊富だ。ワイン用のグラスは二脚ずつ三種類くらいあるし、洋酒用のショットグラスや、日本酒のぐい飲み、後は江戸切子の冷酒グラスも置いてある。
(初めて見た時は、どこかのバーかと思ったくらいだものね…)
冷蔵庫の時と同じような衝撃を受けたことを思い返すと、千紗子の口からクスッと笑いが漏れた。
「何が可笑しい?」
食器棚の方を向いていた雨宮が振り向きざまに見下ろしてくる。
少し拗ねたような彼の気配に、千紗子はまた「ふふふっ」と笑いを漏らした。
「雨宮さんはお酒がお好きなんですか?」
「…ああ、そうだな。」
食器棚の中身と、昨日の冷蔵庫のことで、千紗子がどうしてそんなことを言い出したのか、雨宮もすぐに気付く。
「酒と本が、趣味、かな。」
「ランニングは違うんですか?」
「あれは日課だ。」
「…そうなんですか?」
「ああ。」
違いが良く分からないけれど、千紗子は別に気にならなかった。
今の和やかな空気が心地良い。
こんな風に雨宮と話していることが千紗子には不思議な気がしていた。