Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 (そう言えば、裕也に車で送ってもらったこともなかったなぁ。)

 次から次へと出てくる。裕也と付き合っている時にそれを不満に思ったこともなかったし、そもそも気付きもしなかった。
 なぜなら千紗子は裕也としか付き合ったことがないからだ。

 千紗子にとっては裕也が初めての恋人。

 地味で真面目な千紗子に言い寄ってくる男性なんてそれまでは居なかったし、好きな人が出来ても、千紗子は自分から告白する勇気もなくて、いつも片思いで終わってしまっていた。

 裕也はとは大学のサークルの飲み会で知り合った。
 千紗子と裕也は別々のサークルに所属していたが、部長同士が友達だとかで、合同での飲み会が開かれたのだ。
 知らない人との飲み会が苦手な千紗子は参加を断ったのだが、部長が友人だったので、押し切られる形で連れていかれた。
 今思えばそれは『合コン』に近いものだったのかもしれない。

 その飲み会で千紗子に興味を持った裕也が、千紗子を一生懸命口説いた結果、付き合うことになったのだった。

 (大学生の頃は、迎えに来てくれた裕也の車に乗って、デートに行ったわね…)

 楽しかったときを思い出すと、胸がギューっと締め付けられる。
 三年も一緒にいた彼との思い出は、楽しいことも沢山あって、一度その蓋が不意に開いて波のように千紗子の胸に押し寄せてきた。

 じわり、と瞼が熱くなっていく。

 「もう寝なきゃ。」

 頭を振って思い出と涙を振り払う。

 ベッドに体を滑り込ませようとした瞬間。

 「あっ!」

 千紗子は雨宮に言い忘れていたことを思い出して、慌ててベッドから飛び降りた。
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