Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
部屋に飛び込んだ千紗子は、ドアを背にしたまま、忙しく鳴る心臓の動悸に身じろぎできないでいた。
胸に当てた手が小刻みに震えて、それを逃がすように、ふーっと長い息を吐く。
「あの二人……すごくお似合いだった。私のことなんて、もうきっと気にもしてないわよね……。」
口にした途端、心臓を襲った激痛に、千紗子は顔をしかめた。
自分で発した言葉が鋭利な刃となって、こんなふうに自分を痛めつけることを知る。
怖ろしいほど容姿端麗で仕事も出来て優しい、そんな彼がいつまでも自分に構っているわけはないのだ。
隣の女性を見る雨宮の瞳は優しく、二人の間にはとても気安げな雰囲気があった。
まだ朝早いこの時間に駅に向かって歩いているということは、二人は雨宮のマンションから一緒に出てきたかもしれない。
―――雨宮が自分とは違う女性と一晩を共にした。
そう想像しただけで、千紗子は声を上げて叫びたくなった。
両手で口を押えてドアに背を預けてずるずるとしゃがみ込んだ千紗子の瞳からは、次々と涙がこぼれ落ちていく。
(わたし、いつのまにか、雨宮さんのことを………)
涙が溢れて止まらず、手でふさいだ口からは嗚咽が漏れた。
「ううっ、うう~、っひっく、っく…」
婚約者に浮気された挙句振られて、まだ一週間しか経っていない。なのに、もう他の男性のことを好きになってしまった自分が信じられなかった。
しかもその相手は自分を好きだと言ってくれたのに、臆病な自分はそんな彼から逃げ出したのだ。
(こんな私のことなんて、ずっと好きでいてくれるわけないんだわ………)
雨宮への好意を自覚した途端振られたも同然で、千紗子の胸はいつまでも痛んで涙が止まらなかった。