Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
祝日の割に人が少なかった今日、定時で仕事を終えた千紗子は、駅近のカフェで紅茶を飲んでいた。
期間限定だというクリスマスティには、数種類のスパイスや柑橘系のドライピールが使われているらしく、今日のように寒い冬にピッタリな紅茶だ。
千紗子はカップを両手で持ち冷えた指先を温めながらカップの中のミルクティにふぅっと息を吹きかけた。
図書館を同時に出ることになった美香と「良いクリスマスを」と言い合って別れた後、千紗子はバスに乗って駅まで帰ってきた。
駅でバスを降りた後、すぐに帰宅をしなかったのはここで待ち合わせをしているからだ。
紅茶に口をつけて一口飲むと、スパイスと茶葉の香りが鼻に抜ける。絶妙なバランスで配合されているのか、スパイスが茶葉の香りの邪魔をすることはなくてとても美味しい。
少し前までは、コーヒーと紅茶を飲む比率は半々だった千紗子だけど、近頃では紅茶を選ぶ機会が増えてきたのは気のせいではない。
(このスパイシーな感じと茶葉の香り…やっぱり一彰さんみたい。)
自分が感じたことがすごく正しいような気がした千紗子は、くすっと小さな笑いを漏らした。
「何かおもしろいことでもあったのか、ちぃ。」
「きゃっ!」
突然背後から耳元で囁いた声に、千紗子は飛び上がりそうなほど驚いた。
斜め上を振り向くと、悪戯に成功した少年のような笑顔を浮かべた恋人が立っていた。