Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 大きな家と家の隙間にひっそりと佇んでいるそこは、背の高い木で囲われていて、外側からは屋根の部分しか見ることが出来ず、唯一外側から見ることのできるのはこじんまりとした鉄門だけだ。ともすると、それすらも両側にこんもりと繁った生垣で、見落としそうなほどだ。

 (外国のお話の中に出てくる魔女の隠れ家みたいなところだわ。)

 街灯と月明かりがほのかに照らすその家を見上げながら、千紗子はそんなことを考えていた。

 「さあ、行こう。」

 一彰によって押されたその門は、キィっという音を立ててゆっくりと開く。一彰が千紗子が中にはいるまで鉄門を押さえて待ってくれていた。
 

 門を通って中に入ると、視界が一気に開け、千紗子の目に中の様子が飛び込んできた。

 「妖精が住んでいそう…」
 
 思わずついた溜め息と同時にそんな発言をした千紗子だが、門から玄関までのアプローチから見える庭は、本当に妖精、もしくはあの有名な絵本のうさぎが出てきそうな雰囲気を持っていた。

 そこかしこに植えられている樹や花や、あとおそらくはハーブと思われる草木の一つ一つの名は千紗子には分からなかったけれど、うっそうとしているように見えて実は計算されて造られた庭園なのだということはなんとなく分かる。千紗子は、自分がイギリスの庭に迷い込んでしまったのではないかとすら思えた。
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