Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「具合が悪くなったのか?」

 千紗子は小さく頭を左右に振る。

 「本当か?ふらついたりしてないのか?」

 そう尋ねる声が本当に優しげで、千紗子は伏せていた目をそっと持ち上げる。
 すると心配そうに覗き込む瞳とぶつかった。
 自分のことを見つめている瞳は真っ直ぐで、眼鏡の上の眉はやや下がり気味になっている。
 
 (心配してくれてるんだ…)

 心の底から自分のことを案じていてくれているのだと気付いて、千紗子は小さく頭を縦に動かした。
 その様子を見た雨宮は、ホッと息をついてから「良かった」と微笑んだ。
 
 千紗子の瞳が、その微笑みにくぎ付けになる。
 まるで花がほころんだようなその笑顔は、これまで見たことがないくらいに艶やかだ。
 そしてなにより、その瞳は『愛おしいもの』を見つめているかのように愛情に満ちたものに見えた。

 千紗子の中に、さざ波が立った。
 けれど、その感情の起伏の理由を、今の千紗子には感知することは出来ない。
 今の彼女の心の中を占めるのは、悲しみと絶望、そして今この状態による羞恥だけだ。

 雨宮の顔を見つめたまま固まってしまっている千紗子の頬に、そっと大きな手が差し入れられた。

 「顔色が良くない。このままだと体が冷えてしまうから早く風呂に入っておいで。」

 触れられている頬がじんわりと温かくて、千紗子は自分の体が冷えていることに気付く。

 「それともやっぱり一緒に入ろうか。」

 当たり前のことのように、真顔でそう言われて、千紗子の顔にみるみる朱が差し始める。

 (そういえば、私ほぼ裸!!)

 今更ながらそんな事実を思い出して、焦ってバスタオルをもぞもぞと広げようとしていると、「クスリっ」と笑いを漏らした雨宮の次の一言に、千紗子は体中から火が出る思いを味わう。

 「千紗子の体ならゆうべ隅々まで見たから、今更隠さなくても大丈夫だ。」

 (きゃ~~~~っ!)と開けた口からは叫びすら音にならず、脱兎のように浴室に飛び込んで、彼の真顔から逃げ出した。
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