Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 ザーーーーッ
 勢いよく出るシャワーを頭の上から被る。熱めのお湯が一瞬チリッと肌に痛い。
 けれどそんなことも気にも止めずに、千紗子はシャワーの下で瞳を閉じた。

 瞳を閉じると、昨夜の記憶がハッキリと思い出せる。
 さっきまで夢かと思っていたのは、実際に彼女の身に降りかかったことなのだ。

___________________________
______________________
_________________
 

 「雨宮さんはここで待っていてください。」

 意を決して玄関扉を開けた千紗子は、雨宮をその場に残して中に入った。

 リビングまで真っ直ぐに延びた廊下を、一歩ずつ足を進める。
 すりガラスドアからは、暗い廊下に明かりがもれていた。

 (私の思い違い、だよね…)

 ドアの前に辿り着くと、心の中でそう呟いてからドアノブに手を掛けた。

 ゆっくりと力を込めて、ドアを押したその時、

 「…あぁっ、……はぁ~っん…」

 ドアの向こうから、甲高い嬌声が耳に入ってきた。

 ドアノブを握ったまま千紗子は固まった。

 体は金縛りにあったみたいに一ミリも動かないのに、心臓だけは何倍ものスピードで音を立てて動いている。
 その間にも、リビングからはあられもない嬌声と、その合間にくぐもった声が聞こえてくる。

 千紗子の頭は真っ白だった。
 ドアノブに置いた手が小刻みに震えているのが分かる。声なんて少しも出ずに息すらきちんと出来ているか怪しい。

 いっそ耳も聞こえなくなればいいのに、いつもよりも研ぎ澄まされたように、部屋の中の小さな物音や聞きたくもない声を拾ってしまう。
 時々聞こえてくるくぐもった声は、間違いなく自分の婚約者である裕也のもので、一緒にいる女と何をしているのかも、耳からの情報だけで明白だった。
< 33 / 318 >

この作品をシェア

pagetop