Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「やめろ。彼女が怯えている。」

 地を這うような低い声が冷たく言い放つ。
 大きな背が千紗子の盾になり、彼の左腕が千紗子を守るように後ろ手に回されている。

 裕也が掴んでいた手は、彼が間に入った時に弾き出された。

 「お、お前には関係ないだろっ!そこを退けよっ!」

 「俺が退いたらお前はどうするんだ。」

 「俺はただ千紗と、彼女と話がしたいだけなんだっ!」

 「話…こんな公衆の面前で女性に向かって怒鳴る奴に、ろくな話が出来るとは思えないな。」

 「なに?…関係ないヤツにとやかく言われる筋合いはないっ。」

 図星を刺された裕也が喚きながら雨宮に詰め寄る。

 「関係ない、か。俺は無関係なのか?千紗子。」

 首を捻って千紗子を見下ろす雨宮の瞳が、裕也に向けた冷たいものとは正反対に、甘く優しい。

 「雨宮さん…」

 その瞳に見下ろされた瞬間、千紗子は安堵のあまり両目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
 
 「全く無関係とは、いえないだろう。さっきも俺のことを話していたみたいだしな。」

 「お、お前…もしかして昨日の!」

 裕也はやっと目の前の男が、昨日千紗子と一緒にいた男と同一人物だと気付いた。
 確かに雨宮は昨日と今では着ている服も髪型も、眼鏡すら違う。同じ人物だとすぐに気付かれなくても不思議はない。
 けれど、その長身と整った顔立ちには裕也にも覚えがあった。
< 80 / 318 >

この作品をシェア

pagetop