Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「千紗、お前やっぱりこの男と…」
 
 怒りを滲ませてひどく歪んだ顔で、裕也が唸る。

 「ちがっ、」

 「ははっ、すっかりお前に騙されたな。従順なタイプだから結婚してもいいか、と思っていたのにな。」

 「!!」

 昨夜の時点では裏切ったのは裕也だけだった。けれど、今になっては『雨宮とは何の関係もない』とは言い切れない千紗子は、裕也に言われっぱなしで反論することが出来ない。
 
 「随分一方的な言い分だな。自分の話は聞いてほしいと言ったくせに、彼女の話は聞かないのか?」

 「はっ、どうせ聞いたって一緒だろ。もういいさ。千紗子、お前とはもうこれっきりだ。地味女のお前なんかと結婚しなくて良かったよ。あの部屋はお前の好きにしろ。俺は出ていく。じゃあなっ。」

 「裕也っ!」

 最後まで一方的に自分の言いたいことを言い放った裕也は、二人に背を向け足早に去って行った。

 「どうして…」
 
 千紗子の両目からは涙がポロポロと幾つもこぼれ落ちる。へなへなと足元からその場に崩れ落ちそうになりそうなところを、雨宮が抱き止めた。

 「千紗子…」

 「……すみません、雨宮さん。結局また巻き込んでしまって…」

 言いながらくらくらと視界が揺れて、千紗子は目を硬く閉じる。

 「俺のことはいい。それよりも千紗子のことが心配なんだ。」

 「すみ、ま、…せ」

 謝罪の言葉を最後まで口にする前に、千紗子は意識を手放した。


< 81 / 318 >

この作品をシェア

pagetop