Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
ミルクティを飲んでいる間、二人は黙ったままだった。
茜色に染まった山と夕陽を受けてきらめく河の水面が、バルコニーの向こうに見える。
どちらとも何も言わないけれど、それは決して居心地の悪いものではなくて、むしろ穏やかな空気が流れる静謐なひとときだった。
静寂を破ったのは雨宮の方だった。
「千紗子、しばらくの間はうちに居たらいい。」
今手に持っているマグカップの中身が無くなったら、雨宮に礼を言ってここを出ていこう。そう思っていた千紗子は、彼の提案に戸惑った。
「今の君には、あの部屋に帰るのは難しいだろう。体調もだけど、彼のこともある。さっき会った時、彼はあんなふうに言っていたが、またあの部屋に戻ってこないとは限らない。君一人の時に彼が戻ってきたら、また君が辛い思いをするかもしれない。……それに、何より俺が、君を一人であそこに帰すことなんて出来ない。」
「雨宮さん…」
「千紗子に何かあったらと思うと、居ても経ってもいられないんだよ。」
ソファーの隣からジッと見つめる気配を感じるけれど、千紗子はそちらに顔を向けることが出来ない。
顔を向けて彼と目が合ってしまったら最後、なんとなく彼の申し出を断ることが出来ないような気がした。
「わ、私は、」
両手で握るように持っているマグカップに、視線を固定させてなんとか口を開く。
「しばらく、ホテルに行こうと思います。これ以上、雨宮さんにご迷惑は、」
「迷惑なんかじゃない。俺がしたくてしてることだ。」
雨宮が千紗子の言葉を遮った。
「俺の方を見て。千紗子。」
斜め上から降ってくる低音ボイスに、千紗子が顔を上げられずにいると、隣から伸びた手が千紗子のマグカップをスッと抜き取った。
突然のことに千紗子が呆然としている間に、その手はマグカップをソファーテーブルの上に置いた後、千紗子の背中を包むように抱き寄せた。