Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「あのっ」

 千紗子は思い切って口を開いた。

 「なに?千紗子。」

 「もし良かったら、ここでお世話になっている間、私に食事を作らせてもらえませんか?」

 千紗子がそう言うと、雨宮は軽く目を見張った。

 「お世話になる代わりと言ってはなんですが、ご飯の用意くらいさせてください!」

 「千紗子…」

 「あ、雨宮が私の作ったもので良ければですが…その、私自炊派なので、自分のご飯を用意しやすいですし…えっと、キッチンは汚さないように気を付けますので…」

 千紗子の声はだんだん小さくなっていって、最後の方はゴニョゴニョと言っているようにしか聞こえなかったけれど、それでも雨宮の耳はその声をしっかりと捕えていた。

 「だ、だめですか…?」

 上目使いに雨宮を見ると、驚いた顔のまま固まっていた彼は、みるみる相好を崩した。

 (うわっ、お花が咲いたみたい。)

 昨夜からまだ二十四時間も経っていないのに、職場では見たことのない雨宮の表情の数々に千紗子は驚かずにはいられない。

 (こんな雨宮さんを図書館のみんなが見たら、彼の人気は更に凄いことになりそうだわ…。)

 そんなことをぼんやり考えていると、テーブルの上の千紗子の左手を雨宮がそっと握った。

 「きゃっ!」

 「千紗子の手料理が食べれるなんて夢みたいだな。」

 「あの、期待していただくほどのものではないと思いますが…」

 そっと左手を自分の方に引きながらそう言うと、雨宮の指が千紗子の指を絡め取るように握る。

 「千紗子の手作り、ってことが大事なんだ。嬉しいけど、決して無理はしないでほしい。千紗子の体調が一番なんだからな。」

 笑顔を真顔に戻した雨宮に、そう諭されて、千紗子は首を縦に振るしかなかった。


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