24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~

「十河さん、食べたいだけ、気を使わずに召し上がってくださいね」
「でも、申し訳ないので」
「いいんですよ、お連れしたのは私ですから」

 自分が食べ進めないと、立花も箸を置いたままで時間が過ぎてしまいそうなので、伊鈴は半ば開き直って贅沢をしようと決めた。

 立花が追加注文した殻つきの帆立は甘みが強く、鮪や鯛の刺身も美味しい。秋刀魚の塩焼きまで出てきて、箸を置くタイミングも忘れ、口に運び続ける。

(いい食べっぷりだなぁ。なにがあってあんなに泣いていたのかは聞けないけど、これで元気になるなら)

 もぐもぐと食べる伊鈴を、立花は微笑ましく見つめる。なにを食べても、頬に手を当てたり目を丸くしたりと、見ていて楽しい。
 それに、「美味しい」と多く言葉にしなくとも伝わってくる彼女の表情に、ようやく明るさが戻ったようでホッとした。


「十河さんのことを少し聞いてもいいですか?」
「はい、もちろんです」

 ビールは1杯だけにして、日本酒を飲みはじめた立花が、なにげなく話を切り出す。
 こんな贅沢な店に連れてきてもらったのだから、それくらいは当然だと、伊鈴も日本茶を啜ってから向き直った。

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