24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
老舗和菓子店を経営するとなると、代々受け継がれてきた常連さんとのかかわりもあって大変そうだ。
店の品位を守らなくてはいけないし、時には厳しい意見だって受け止めることもあるだろう。
歴史や店の看板を背負うぶん、苦労が絶えなさそうなのに、後継の道を選んだ理由を知りたくなった。
「立花さんは、ご自分から後継者に?」
「そうだね。まぁ、うちもいろいろとあるんだけど、今日は難しい話はやめよう。そのうち話せたらと思うし」
「はい」
(そのうちって、どういう意味なのかな……)
伊鈴は、うどんを啜る彼を少し眺めてから、自分もまた食べ始めた。
「ご馳走様でした」
「いえ、これくらいは私が」
またしても立花に押し切られそうになったが、なんとか伊鈴の支払いで店を出た。
車に向かうまでの番傘の中で、支払った側の伊鈴が申し訳なさそうに頭を小さく下げる。
(誕生日デートだってわかってるのかな、この子)
祝われる立場なのに自ら財布を出した伊鈴の言動が、立花の目にはとても新鮮に映った。