24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~

 日頃、立花に寄りつくのは、代々続く店の名にはそぐわないようなタイプが多かった。
 和菓子屋なのに香水をたっぷり振って会いに来る若い女性から、家庭があるにもかかわらず不貞と分かって関係を望む者まで様々。

 しかし、ひとつの失恋で儚い涙をこぼす女性は、立花にとって初めてだった。
 伊鈴が傲慢で気遣いがなかったり、誘いに軽々と乗ってしまうようだったら、きっと今頃一緒にいないし、わざわざ休日を潰してまで誕生日を祝ってあげたいとも思わなかっただろう。


 彼の運転で再び都内を走る。
 十五分ほど経った頃、伊鈴は街並みに〝南麻布5丁目〟と記された電柱広告を見つけた。


「どこに行くんですか?」
「俺の家。ちょっと着替えたいから寄らせて」

 閑静な住宅街を緩やかな坂が貫き、その途中で車がガレージに入り、停車した。

(さすがにずっと着物は窮屈だよね……)

 自分のせいで外泊する羽目になったのだから、文句など言える立場ではないのだ。

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