天満つる明けの明星を君に【完】
屋敷に客が来ること自体はそんなに珍しくない。

父の十六夜に助けを請いに来る妖は多く、その度に兄弟たちは身を寄せ合ってそんな光景を遠巻きに見ていた。

父は無表情で無口であまり笑うことがなく、どうしてあんなに愛嬌が良くて可愛らしい母が父を選んだのだろうと兄弟の中でも度々話題に上がっていたのだが、そんな父は母と話している時、よく笑顔を見せた。


「ねえ母様、父様ってどんな方ですか?」


「え?天ちゃんたちもよく知ってるでしょ?父様可愛いでしょ?」


「か…可愛い?そう…ですか?そうなのかな」


「うん、普段笑わない人がにこってするときゅんとするよね。普段冷たい人が優しいときゅんとするよね?」


「うーん…僕にはまだ分かりません」


甘味処で餡蜜を食べながら話している間にも、天満と息吹をちらちら見る者は多く、天満と年頃が同じ女子たちは特に天満を熱視線で見ていた。

とにかく無駄に顔が整っていて、きれいというよりは可愛いという印象が深い天満の笑顔に卒倒しそうになる者も居る中、天満はそんな視線を感じながらずっと俯いていた。


「天ちゃん女の子とあんまり喋らないよね。どうして?」


「あの…苦手なんです。目が合うと襲い掛かられそうで」


思わず吹き出した息吹は、朔や輝夜と全く性格の違う天満の超初心な性格に和んで匙で掬った寒天を天満の口に入れてやった。


「でも明日屋敷に女の子も来るから、ちょっとだけ頑張ってね?」


「えっ!?そうなんですか?僕…頑張れるかなあ」


「朔ちゃんも傍に居てくれるから大丈夫だよ。同じ年頃の女の子だよ。如ちゃんともお友達になってくれるといいなー」


「如月ですか?同じような性格なら友達になれると思いますけど…無理ですよね?」


「ふふ、如ちゃんは男勝りだから、ちょっと女の子らしくなってくれるといいね」


――屋敷に女の子が来る…

それを聞いてちょっと憂鬱になった天満は、餡蜜を食べ終えてさっと立ち上がった。


「さあ、お買い物しましょう!僕、重たい物も持てますからっ」


袖を捲って細腕を見せて息吹を笑わせた。
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