天満つる明けの明星を君に【完】
雛菊の月のものが終わるまで滞在しようということになり、数日間家族で様々な話をして過ごした。

そんな中息吹に客間に呼び出された雛菊は、そこで立派な白無垢が飾られているのを見て目を丸くした。


「わ…素敵…」


「ふふ、これね、私が十六夜さんの元に嫁いだ時に着たやつなんだけど、雛ちゃんに着てほしくて」


「え?」


「お嫁に行った如ちゃんは着てくれなかったし、娘たちもいつ嫁ぐか分からないから、雛ちゃんどう?」


――とても立派な白無垢で、思わず手に取ろうとして慌てて引っ込めた雛菊は、息吹の傍に座って頭を下げた。


「ごめんなさい、実は私のお母様が生前用意して下さった白無垢が実家にあるんです。それを着たくて」


「わあ、そうなの?じゃあそれを着なくちゃねっ。傷んでる所がないか見たいから、ここに送ってもらえる?」


「はい、よろしくお願いします。……お義母様」


「!今お義母さんって言った?ふふふ、素敵な響き!もっと言って言って」


照れて俯く雛菊に絡んでいると、天満が顔を出しに来て白無垢を見るなり顔を綻ばせた。


「また母様は雛ちゃんに何か無理言ってるんでしょ?話が終わったならちょっと散歩に行こうよ」


「うん」


天満の手には雛菊の身体が冷えないように綿入りの羽織が。

気遣いのできる優しい子になってくれて良かったと同じように笑った息吹は、手を振ってふたりを見送り、その後居間に行って縁側で煙管を吹かしている十六夜の隣に座った。


「さっきお義母様って言われちゃた。ふふ」


「…そうか。良かったな」


「主さまもお義父様って言われたいでしょ?‟お義父様、肩を揉んで差し上げます”って言われたいでしょ?」


「…」


返答如何では修羅場になる。

黙殺した十六夜の腕に抱き着いた息吹は、このままここに住んでくれればいいのにと呟き、小さく笑われた。
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