天満つる明けの明星を君に【完】

啓示を携えて

数日滞在した雛菊は、月のものも終えていよいよ明日鬼陸奥に帰ることとなり、一抹の寂しさを覚えていた。

鬼陸奥は故郷だから、離れ難かった。

だがいざ幽玄町で数日皆と過ごすと――あまりの心地良さに、帰りたくないと思ってしまったのも事実だった。


「でも天満様と夫婦になったらどこに住むのかな…。私は宿屋があるし…」


軌道に乗ったら信頼できる者に任せて、ここで主さま――朔を助けながら暮らすのもいいかもしれない。

なにより天満はそれを望むだろうし、天満が望むことは叶えてあげたい。


「天満様に訊いてみよう」


庭で草むしりをしていた雛菊が腰を上げて縁側へ行こうと振り返った時――


「おや、見慣れない顔の者が居ますね」


「!?あ、あなたは…?」


――その儚くも優美で中性的な美しさよ。

一瞬女かと思ったが、湯飲みを持っている手はまさしく男のものであり、だが恍惚とするような微笑は女のものに見える。

そしてその美しさは、この一家に共通するものだった。


「鬼頭の方…ですよね?」


「ええそうですよ。順番で言うと二番目です。少し胸騒ぎがして戻って来たのですが…そうか…そういうことですか」


…意味が分からない。

右目は長い前髪で隠れてはいたが、左目は少し垂れた切れ長の柔らかい目元で、どこか憂いを帯びていた。


「えっと…」


「輝夜!」


突然庭に通じている方の朔の部屋の障子が開いたと思ったら、ものすごい慌てようで朔が飛び出て来た。

いつも落ち着いている朔の慌てように雛菊が目を丸くしていると、同じようにどこか違う場所に居た天満が雪男と共に駆けて来た。


「輝夜!」


「はい、私です。皆も元気なようで安心しました」


あっという間にもみくちゃにされた輝夜は、真っ直ぐ雛菊を見据えて軽やかに手招きをした。


「ちゃんと挨拶をしなければ。天満、お前の嫁ですね?」


「さすが輝兄、ご名答です。雛ちゃん、こっちにおいで」


「う、うん」


兄というからには――男なのだろう。

雛菊は緊張しながらまばゆい光を放つ男たちの元へおずおずと近付いた。
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