略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 けれど、気になるのはふたりが話していた事情だ。

 陽翔といたその女性は、匠海の姉。

 あのときカフェで見た陽翔と匠海の姉の様子から、やはりふたりが恋人同士なんだと察せる。

 そして陽翔の婚約は、望まれないものだったのだ。

 その姉のために、匠海は美郷に『結婚させない』と言っていたのか。

 美郷が律儀に陽翔との婚約を守っている間、匠海は姉のために、あの優しい笑顔の裏で“姉のための婚約解消”を考えていたのだ。

 美郷を口説いていたあの言葉も、ひいては姉の幸せのためのブラフだっただろうのか。

 匠海の考えていることがわからなくなり、視界が暗くなった。


「美郷が想っている相手が俺だとなると、さすがのじいさんも折れるさ」

「そうだといいけど」

「そうなるように頑張るのが俺の役目だろ」


 姉のために頑張って美郷を口説く、とそう聞こえた。

 美郷の気持ちは、匠海に誘導されたものだったのか。

 あたたかくて幸せだと感じていたあの時間は、美郷の一方的な感覚だったのか。

 美郷の中で、何かが切れた音がした。
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