略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

「美郷ー」

「は、はい……っ」


 手にしていた文庫は、一文字も読むことなく慌ててベッドに放り、飛び上がるようにして今まさに開かれる扉に駆け寄った。


「やっぱり陽翔さんって素敵な方ね。お父さんのお見合い写真、思い出しちゃった」


 頬を染める母から、光沢のあるグレーの表紙を受け取る。

 4年ぶりに手にした、陽翔の釣書だ。


「お父さんも凄くイケメンでね? 初めて会ったお見合いの日に一目惚れしちゃって」


 うふふと嬉しそうに昔話を語りだす母に、愛想笑いと感謝の言葉を向ける。

 内心耳タコの惚気話を聞くような心境ではない美郷は、やんわりと母に退室を促し、ひとりきりになった。

 母が出ていった扉に背をつけ、大きく息を吐く。

 両掌で拝むように挟んだグレーの冊子を、祈るようにそっと開いた。

 薄い半透明の合紙がかけられた写真の向こうにある人影。

 一度深く瞬きをしてから見下ろし、かさりとそれをめくった。

 現れたのは、濃グレーのスーツを着た精悍な顔をした男性。

 口元に薄く笑みを引いた婚約者の顔に、美郷は目を見張った。
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