略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 本当に馬鹿だ。

 どうしてわざわざ、この上に匠海を傷つけなければいけないのか。

 線引きを怠った代償がこれだ。

 美郷に『会いたい』と言ってくれる人を傷つけてしまう薄情な自分の胸が、身勝手にズキズキと痛む。

 もし婚約したのが匠海だったら、こんなふうに傷つけることはなかったのに。


『それでもまだ、俺は諦めないよ』


 こうやってしつこく食い下がってくる匠海の気持ちに、応えることができたら――――。

 到底無理な仮定に、美郷は重い口を開いた。


「匠海さん……やっぱり、こういうことは控えませんか? 今までどおり、銀行でお話するくらいに……」

『それ、本気で思ってるのか?』


 低い声音にばっさりと切られて、言葉に詰まる。

 心の中を探り当てられたようで、心臓が大きく鼓動した。


『そんなに淋しそうな声で言われても、“言いたくないことを無理やり言ってる”ようにしか聞こえない』

「……っ!!」


 ひゅっと息を詰め、押さえた口唇はかすかに震えていた。
< 89 / 241 >

この作品をシェア

pagetop