恋人未満のこじらせ愛
いやいや、これじゃ永遠に帰れなさそうだ。

「すいません、お手洗い行ってきます」
不覚にも話が続きそうだったので、流れを変えようと店の外にあるトイレへと行く。
用を済ませ、手を洗いながら(店に戻ったらすぐに「じゃあそろそろ帰りましょうか」と切りだそう)と強く心で念る。


だが予想に反して、トイレから出ると私のかばんを持った智也さんがそこに立っている。

「そろそろ行くぞ」
内心ガッツポーズだ。

エスカレーターに乗ろうとするが……「こっち」と手首を捕まれる。
そっちはエレベーターの方角。

「エスカレーターの方が早いんじゃ…」
一階に上がるだけだ。絶対にこっちが早い。

そんな言葉を無視して、智也さんはエレベーターのボタンを押した。

「上行くから」
「はい?!」

「上に部屋取った」

「ちょっ!なん…」

「煩い黙って」

後ろから腕が伸びてきて、てのひらで口が押さえられる。

「後でじっくりと聞く。な?」

またあの威圧感がある視線が刺さる。
金縛りにあったように、体が蝕まれていく。
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