恋人未満のこじらせ愛
「おっと二人ここいい?」
顔を上げると江浪さん──と大村先輩。いや、来週から課長だが。

返事するより前に、二人はドカドカと座る。
大村先輩はなぜか私の隣。


「江浪くん、返事してないわよー」
佐々木さんはケタケタ笑いながら隣に座った江浪さんを叩いている。

「佐々木さん、そう言えばさぁ。沙絵ちゃんがさぁ………」


『沙絵ちゃん』とは江浪さんの少し年上の奥さんで、佐々木さんの同期の人だ。
残念ながら少し前に、おめでたが発覚し退職してしまった。

二人の会話に適当に相槌を打ちながら、私はうどんをずるずるとすする。
どうやら沙絵ちゃんこと伊藤さん(旧姓)は毎日つわりに苦しんでいるらしい。大変そうだ。


「あのさ、今週だけど」
二人の会話が盛り上がっている中、隣からボソッと声が聞こえる。

「俺土曜日まで出張だから。福岡行ってくる」

「へぇ、そうなんですね」

「ついでに何か見てくるわ。KBCシネマっていうミニシアターがあって、この前逃したやつがさぁ………」

じゃぁ今週は会わないか。まぁ都合がいい。

「じゃ、来る?福岡。お前も逃して悔しがってた…」
「なぜ自腹を切って福岡に行かなきゃいけないんですか」

「あ、そっか。週末は確かアレの日……」
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