三途の川のお茶屋さん
女は不安げに、俺に問いかけた。
ここは死者の魂が最初に集う場所。
けれど対岸に渡らねば、本当の意味で死を迎えてはいない。とはいえ、ここにある時点で既に現世に肉体はない。
「夢でも見ていると思うのか?」
だから対岸に渡らずとも、ここにある時点で既に死と同義だと、俺は思っている。
「いいえ……、これは夢じゃない。だって私は、病院のベッドで悟志さんを待ちながら死んだ」
女は緩く、首を振って答えた。
やはり女は、明確な記憶を持ったままここに来ていた。こんな事態はこれまでなかった。
一瞬、神威様の顔が過ぎる。
だからと言って、これは決して俺の手に負えぬほどの事態ではない。
「そうか。ならば、船に乗れ。あれが今日、最後の船だ」
ひとまず女を船に乗せさえすれば、記憶があろうがなかろうが、そんなのは大きな問題ではないからだ。