三途の川のお茶屋さん
向う岸に行けば、すぐに魂は選別にかけられて、また新たな生を得て生まれ変わる。
「いいえ。私は船には乗りません」
ところが女は、俺が指し示す船を一瞥すると、首を横に振りきっぱりと言い切った。
「おい、そんな我儘は通らんぞ。いいから船に乗れ」
出航が迫り、僅かに焦り出した俺は女の腕を取った。
「来い」
「嫌です。私はここで悟志さんを待ちます」
しかし女は脚をその場に踏ん張って、テコでも動こうとしない。
「おいっ、いい加減にしないか?」
「私、絶対に川を渡りません」
俺の目をしっかりと見据えた女の主張はブレなかった。
「本日最終便、出航いたします」
!
なんと女と押し問答を繰り広げている内に、最終の船が出航してしまった。