三途の川のお茶屋さん
「お行きよっ? 早く船をお出しよ!?」
タツ江さんとの約束は、すぐに船を出す事。
けれどなかなか船を漕ぎ出そうとしない私に、タツ江さんが叫び、船を出そうと船腹を蹴った。
蹴られた事で、船はゆっくりと動き出す。船が二人から少し、また少しと遠ざかる。
このまま懸人さんに、……いや、兄に何も伝えぬまま別れていい訳がなかった。
私は弾かれた様に二人が落ちた船側面に身を乗り出した。
「……懸人さん、私のせいで苦しめてごめんなさい。だけど古の神代に赤ん坊だった私は、お兄さんに確かな絆を感じてた。輪廻の輪に落ちながら、恨みなんてなかった」
……夢は、夢じゃなかった。
夢は私の、かつての記憶。懸人さんと私は古の神代に、血を分けた兄妹だった。
「今だって、恨みには思ってない。だけど私はもう、輪廻には落ちたくない。私は十夜と一緒にいたいんです」
気付けば私は、懸人さんに語り掛けていた。