三途の川のお茶屋さん


「まぁまぁ、何か悲しい事があったの?? 大丈夫よ、だーいじょうぶ」

女性が手を差し伸ばし、私の目元にハンカチを宛がった。

トン、トン。

そうしてハンカチを持つのと逆の手が、私の背をトントンと優しく撫でる。

女性に抱き寄せられれば、懐かしい「お母さん」の香りがした。優しい手のひらの温もりも、昔と同じ。

「……お、お母さんっっ」

どうしても堪え切れずに、嗚咽と一緒に呼び掛けた。

「あらあら? ふふふ」

お母さんは、三途の川での常で、生前の一切の記憶がない。だから私の事も、覚えていない。

なのに、お母さんが私に向ける笑顔は同じなのだ。生前に大好きだった、お母さんの笑み、そのまんまだった。

苦しくて、なのに懐かしくて嬉しくて、お母さんの胸に縋って泣いた。

「……あの、厚かましいのは承知してます。もう少しだけ、こうしていても、いいですか? 次の、お客様が来るまでっ」

なんとか一呼吸吐き出して、嗚咽と共に、切れ切れに伝えた。



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