三途の川のお茶屋さん
もう二度と感じる事が出来ないと思っていた、お母さんの優しい温もり。それを今、こうして再び肌に感じている。
もう少しだけ、後少しだけ、……お母さんの背中にグッと腕を回した。手放すことが惜しい。手放したくなかった。
何よりこれが、お母さんと温もりを分け合う最後なのだ。
「あらあら? ふふふ、もちろん構わないわ」
お母さんはずっと、トントンと優しいリズムで私の背中を撫でてくれた。
私は幼子に戻ったように、お母さんの胸にスンスンと鼻先を寄せて泣いていた。嬉しくて、切なくて、泣いた。
カラ、カラカラカラ。
「ごめんくださーい」
っ!
ビクンと肩が揺れた。
「おや? もしかするとまだ開店前かい?」
……あぁ、二人目のお客様が来てしまった。