三途の川のお茶屋さん
この日ほど、お客様の訪れを厭わしく思った事はなかった。お母さんとの邂逅を、邪魔された思いだった。
「いいえ、店は開いています。お好きな席にお掛け下さい」
「ん? そうかい」
答えぬ私に代わってお客様に声を掛けたのは、奥から颯爽と現れた十夜だった。お客様は抱き合う私達の対角へ進み、窓側の席に掛けた。
「兄さん、団子をお願いね」
お母さんとの邂逅に気を取られ、十夜の存在を今の今まで忘れていた。それくらい、私にとってお母さんとの再会がもたらす衝撃は大きかった。
「はい」
十夜は当たり前のように注文に応じ、団子の用意に厨房に向かう。その時、通り過ぎ様の十夜が私に向けて、視線を投げる。
十夜の目が、ゆっくりしておけと、無言のまま私に告げる。
「あ……」
私が何か言うより前、十夜は微笑みを残して厨房に消えた。