三途の川のお茶屋さん
お母さんの手が、私の手を包み込み、その手にハンカチを握らせた。
「……最後にもうひとつだけ、お願いしてもいいですか?」
「何かしら?」
「さっちゃん、って呼んでもらえませんか?」
お母さんがふわりと笑った。
「さっちゃん? さっちゃんなら大丈夫、だーいじょうぶよ?」
ハンカチを握る私の手を何度も撫でながら、お母さんは「さっちゃん」と私を呼んだ。
「さっちゃん、元気でね。お団子屋さん、頑張ってね。だけどとっても美味しいお団子屋さんだから大丈夫ね」
「……お母さん、良い、船旅を」
お母さんという言葉が、自然と口から出ていた。お母さんは微笑んだまま、表情を変えない。
けれど、ここでは会わないはずの目線が、確かに絡み合った気がした。私の胸の奥、心の目で確かにこの一瞬、私はお母さんと繋がっていた。