三途の川のお茶屋さん
そうしてポケットから引っ張り出したハンカチを、不器用に私の目元に押し付けた。
「……十夜、普段はハンカチなんて面倒くさがって持たないじゃないですか。おトイレの後は、ペッペッて長衣の裾で手を拭いちゃってるの、私知ってるんですよ?」
「ふん。俺だって、たまには持つぞ? 例にほら、今日は持っていただろう?」
……そのたまにしか持たないハンカチは、パリっと糊がきいたまま。夕暮れに差し掛かっても、まだ一回も使っていない。
「ふふふふふっ。なんだかまるで、用途を決めて持っていたみたい……っ、っっ」
無駄話で誤魔化したつもりの涙は、やっぱりうまく、誤魔化されてはくれないみたい。
「もう黙れよ。胸くらい、貸してやるから」
トントン、と背中を撫でる十夜の手。
お母さんとは違う、ゴツゴツして、大きな手。