キスすらできない。
無意識に伸ばした手が掴めるものなんてない。
風すら掌をすり抜けて虚しさが募る。
追いかけたいと足は疼いているというのに、引き止めるように巻き付くのは現実だろう。
初めて………恋をした。
それも失った瞬間に恋を自覚するなんて。
自覚をしても手を伸ばすには遠い距離。
取り巻く状況は俺が今動くことを歓迎しない。
埋まらない。
あんなに……隣にあった存在だったのに。
「っ………」
俺は……彼女の中で風化していく存在に分別されたんだろうな。
今の呪いを吐いて、ケリをつけて、過去の淡い恋情だと仕舞い込まれて。
感じた痛みさえも長続きなんてしない。
そんな痛みなど忘れるくらいの新しい存在を見つけて求めて恋をして……笑って。
………ああ、………最悪だな。
そんな彼女なんて見たくない。
在ってほしくない。
俺の傍に居ないのに幸せになれる彼女なんて在ってほしくない。
いっそのこと……俺を思い出さずを得ないくらいに堪えて堪えて、泣いて泣いて…。
どうか彼女が幸せな恋に巡り合いませんように。
「どうか……不幸せに……」
のようやく零れた自分の声音は愛憎の響き。
それを発することで不完全燃焼の胸のを内を誤魔化して。
これでお終いなのだと天を仰いで息を吐きだせば、重力に従順に頬を伝った生温い感触。
「痛くて泣くのは人間として当たり前…か……」
『泣いて痛みが無くなるわけじゃないもん』
「本当だな……ピヨちゃん……」
泣いても痛みは無くならない。
堪えて癒えるのを待つしかないんだ。
……癒える傷であるのなら。
俺と彼女の関係は呪いのかけ合いで終わりだと思っていたのに。